知れ、スタートライン2
初優勝から一年
今日2019年1月27日は、オレがポッ拳の大会で初優勝をしてからちょうど一年になる。
それまで全く結果を出していなかった無名の人間が強豪プレイヤーをなぎ倒しての優勝。その年初の公式大会にして、大きなドラマを生んだと話題にしてもらえた大会だった。
当時の記事にも書いているとおり、その大会では2016年、2017年の世界王者をオレが倒している。ルールがルールだけにまぐれもあっただろうが、それでもその時オレは初めて確信を得ることができた。
"ついに現実的なレベルで公式世界大会優勝を狙える位置にきた"と。
その後はプロゲーミングチーム"V3Esports"に所属しプロプレイヤーへ。実績としても去年最も成長したプレイヤーとして、自信を持って手を挙げられるだけの結果は出してきた。
だが、それはあくまで上がり幅の話。皮肉な話だが、これらのことには"クロスいがらしは弱いプレイヤーだ"という共通認識があって成り立っている。
事実、公式世界大会"ポケモンワールドチャンピオンシップス2018"では、他の日本人が全てTop8入りを果たした中、唯一の惨敗。それだけでなく大会が少ないシーズンにおいては、目立った何かを残したわけでもない。
何がチャンピオン。何がプロゲーマー。過去や肩書きで語られるのは、そいつが当に過去の存在となった時にすることだ。
そう思っているだけに、知り合いが誰かにオレを紹介する際「EVOJapan2018のチャンピオン」「V3所属のプロゲーマー」として語られると、内心恥をかいているような気分になる。
無論、これらは紹介しやすいネタなのだから紹介者は悪くない。ただ、オレが決勝戦最後にどういう動きで相手を倒し、観ていて何を感じたかまで語れるようなケースでもない限り、1年前の優勝というのはもはや賞味期限切れに他ならない。
だからこそ、これからオレがどうしていくのか。それは常に自分へ問い続けている。
家族
2018年から2019年にかけての年末年始、オレは実家へと帰省した。普段あまり連絡することのない父が迎えに来てくれ、車の中では互いに近況報告をしていた。その中で父が聞かせてくれたことがある。
"〇〇(5つ年下の従兄弟)は此間ばあちゃんに世話になったからってボーナスから〇万円渡してたぞ。"
全く悪気はないのだろう。事実父はオレの夢や活動を全く否定はしないし、従兄弟と比較していたわけでもない。ましてオレが劣っているという認識さえ持っていないはずだ。
でも、それでもオレは考えた。世界一を目指すだ、プロゲーマーだなどと言われているオレなんかより、田舎で普通の会社に勤めて普通に働いている従兄弟の方がよっぽど孝行者なんじゃないかと。
去年それまでとは一線を画す結果を出してきたとはいえ、時は流れ一つ歳を取るのだから成長するのは当たり前だろう。しかし、生活自体は何一つ変わっていない。
27歳にもなると、ごく稀にだが結婚について触れられることがある。願望はなくはないが現状見込みはない。そもそもあまり強くない。
それというのも、この歳になると恋愛と結婚だけでなく子供のことも考えるものだからだ。そしてその話を振られると必ず頭を過ぎることがある。
"もし仮に自分と同じような子供が生まれたら、オレは許すことができるだろうか"と。
オレは許せないだろう。自分の夢を捨ててまで、何も返さない子供に尽くせと? 冗談じゃない。吐き気さえする。それもこれも、自分が何一つ家族に報いることが出来ていないからだ。
よく友達と話をすると、古い考えに固執して子供を肯定してあげられない親の話を聞く。不慮の事故で片親がいない友達もいる。
でも、オレの両親はずっとオレを肯定してくれた。高校で友達が一人もいなくても、専門学校でゲームクリエイターになれなくても、ゴミみたいな負け犬思想の会社に勤めることになってもだ。
オレがこんなクソカスみたいな子供じゃなかったら、もっと家族は幸せだったんじゃないかって思っちまった。そのことがムカつく。許せねえ。
年末年始、母は美味しい料理をご馳走してくれた。父は早朝に起きて一人で雪片付けしてくれた。祖母は東京に戻るオレにかりんとうを作って渡してくれた。
オレが恵まれてんのはもう分かってる。だから一日も早く、大人として真っ当な人間に成長しなくちゃならない。助けてくれた人たちに応えられるように。
個性
年明け後この時期になるとあることを思い出す。2016年2月20日のことだ。ポケモンが20周年を迎えることを祝い、オレは仲間ともに20周年記念イベントという非公式イベントを行った。
1年以上に渡って準備を行ってきたイベントで、オレはサブリーダーとしてリーダーの補佐を務めた。
紆余曲折ありながらもイベントは無事開催。ゲストとしてオレが世界一憧れているポケモンの生みの親の一人"増田順一さん"も登場し、イベントは大成功で幕を閉じた。
この時のことを仲間内で話すと、メンバー内における最も良い思い出として語られる。それもそのはず。ここではメンバーそれぞれが個性を十二分に発揮し活躍したからだ。中にはここでの経験を機に、プロのイベンターとして活躍している人もいる。
でも、オレはこの時のイベントを振り返ると100%笑って思い出すことはできない。前述したとおりオレの役割はサブリーダー。その役割で具体的に何をしたのかというと実はほとんど覚えていない。理由は簡単。
"目に見えるものが、耳に残るものが、記憶に刻まれるものが、ただ一人何一つ残せなかったから"だ。
イラストを描いた。Tシャツを用意した。音楽を耳コピした。ピアノを弾いた。バルーンアートを披露した。パワポで初代ポケモンのシーンを再現した。
これまで見せてきたものかそうでないもの問わず、メンバーは各々が持つ個性を発揮した。この時のために死ぬほど練習したわけではなく、普段やっていることの延長線上で当たり前のように個性を発揮した。
なのになんで! なんでオレだけ何も持ってない? みんなでポケモンに恩返ししようって決めたのに、なんでオレだけ何も出来てないんだ?
そう考えているうちに一つだけ気付いたことがある。気持ちだけが先走っていただけ。オレは周りの人の良さや力を自分の力と勘違いしているだけだと。そして、このままここにいると、この先何も成せはしないんだと。
それからというもの、オレは何事においても誰かと協力して行う集団での活動ではなく、個人での活動に重きを置いてきた。何の個性も無かった。その現実を受け止め、変えるために。
今も昔も、ポケモンのおかげで頑張れてきた。世界中に友達ができた。だから、この先の未来でもポケモンと一緒に笑っていたいといつも願っている。
そんなオレの信念に揺るぎはないが、たまに思うことがある。自己顕示欲の域を超えられるんだろうかと。オレの行動は憧れである増田さん――強いてはポケモンからのくだらない承認欲求で止まりはしないだろうかって。
海外遠征にあたり「友達だから手伝うことは当然なことだ」と笑ってサポートしてくれる"Midori選手"
公式世界大会が発表され競争が始まる状況で、どんなことでも隠すことなく攻略情報を教えてくれる"さるたろう選手"
ポッ拳だけを見ても国内外問わず世界中に、人として、プレイヤーとして憧れるかっこいい人はたくさんいる。アニメの世界に負けないんじゃないかってくらい、かっこいいヒーローはたくさんいる。
だからこそ、そんなすごい人たちと競い高めあって頂点を獲りにいく。何の個性もなかったオレにチャンスをくれたポケモンたちに応えるために。
ポケモンワールドチャンピオンシップス2019開幕
来たる2019年2月16日。オーストラリアのメルボルンにて、ポッ拳公式世界大会ポケモンワールドチャンピオンシップス2019オセアニア予選がスタートする。
Attention all Pokémon Trainers! The Pokémon Oceania International Championship 2019 website is now live! Stay up to date with all new information and be sure to keep an eye out for pre-registration details coming soon!https://t.co/flZaW78kfu
— ESL Australia (@ESLAustralia) December 19, 2018
オレは今、この大会に参加し優勝するべく猛特訓中だ。今回のルールは昨年と異なり、1人のプレイヤーが3体のポケモンを選んで戦うチームバトル。
つまり、最低3キャラは扱えるようにならなければ土俵にすら立てない。
プレイヤーに求められるスキルは単純計算で今までの3倍。
これは、決して大きくないポッ拳コミュニティにとって参加者の数が減る致命的なルールと見ることもできるだろう。
事実、発表時のツイッターでの反応は初心者・中級者のプレイヤーを始め、1キャラのみをメインとしていたプレイヤーからは否定的な声も上がっていた。
一方で"ポッ拳"でツイートを検索すると、観る側は楽しくなりそうという意見も見受けられた。
代表的なのは、かつてアメリカでトッププレイヤーとして活躍していた人のツイートだ。
I don't play Pokken anymore so I don't have a lot to say, but I was really excited to see 3v3 be added to DX. It looks really fun and the argument against it being that you have to learn more aka be more skilled is really weird when competiting is about overcoming challenges.
— Swillo (@PandaKingEX) January 15, 2019
現時点で180万再生を超えた昨年の公式世界大会におけるGrand Finalの動画を見れば、ポッ拳には観てもらえる可能性が多分にあることが分かる。
そして、それを超えられる可能性がこのチームバトルというルールにはあると言えるだろう。
もうやらなくなったゲームに興味を持つことなど普通ではありえないからだ。
以前、憧れの人と少しだけ2人で話せる時間があった。その時オレが話したことがある。
公式世界大会WCS。全国のポケモンファン、いや全世界が注目するビッグイベントだ。
真の最強を決めるその舞台は、開かれたら最後誰かしらがチャンピオンとして君臨する。チャンピオン不在で終わることはない。
そのような舞台に挑戦し、頂点へと達したのなら世界中から称賛を浴びるだろう。極端な話、その人がどんなに悪い人であってもだ。
だから舞台は凄い。しかし、そのような場合万人が評価しているのは舞台であってプレイヤーではない。1ヶ月もすれば容易にその熱は冷めていく。コミュニティの外からは忘れられていくことだろう。
であれば、WCSがもたらす価値以上にプレイヤーが魅力的であること。ヒーローであること。それがあの舞台に立ち、歴史を紡いでいく者に求められる素質だと。
憧れの人は小さく頷き、それに同意を示してくれた。でも、オレは何も応えられなかった。ここまで言っておいて何一つ残すことなく終わった。
そんなオレにもう一度巡ってきた絶好のチャンス。
"歴史を観ている側でありたいか。創る側でありたいか。"
公式世界大会が発表された今、明確に問われている。
変わらないルールに意見する者。ルールに沿って頂点を目指す者。
そう、つまりこれが最初のふるい。
はっきり言おう。チームバトルというルールになったことで、優勝候補の中からオレの名は完全に消え去った。
オレはルカリオとのみ戦ってきたプレイヤーで、他のポケモンはまともにコンボすら出来ないからだ。
練習をサボっていたわけでもない。取り組み方が悪かったわけでもない。
しかし、ルールの変更があっただけで容易にトップ層から引きずり下ろされた。
それでもなお、本気で世界を獲りにいく覚悟はあるか?
"No.1であるために。なりたい自分になるために"
これが、オレの新たなスタートラインだ。