五十嵐翼:オリジン
【オレとポケモン】
ポケットモンスター。縮めてポケモン。1996年2月27日にゲームボーイ専用ソフト『ポケットモンスター赤・緑』を発売後、関連ゲームの世界累計出荷本数が3億本を突破している言わずと知れたビッグコンテンツだ。
1991年5月9日に生まれたオレは所謂ポケモン世代であり、今年で23年目を迎えているポケモンという存在から多大なる影響を受けてきた。
そのポケモンの生みの親の一人であり、世界中に多くのファンがいるトップゲームクリエイター"増田順一"さん。
子供の頃、その存在は知らずともゲームのエンディングで「ますだ じゅんいち」の名を何度も目にしていたオレは、上京をきっかけにその人と出逢うことになる。
2012年8月5日、ポケットモンスターブラック2・ホワイト2のファンミーティングで初めてその姿を目の当たりにし、2人で写真を撮らせてもらうことができた。それからというもの、イベントのニュースがあるたびにオレは彼を追い続けた。
オレはポケモンに数え切れないほど助けられ、育てられてきた人間だ。
友達が一人もいなかった時。ミスが重なって落ち込んだ時。そんな時にいつも助けてくれたポケモンという存在。それらに抱いていた思いやりや勇気、絆といった平和の象徴とも呼ぶべき概念を、この世界で体現したのが増田さんという存在だとオレは思っている。
一例を挙げると、東日本大地震の被害受けた東北を支援する「POKÉMON with YOU」というプロジェクトでの出来事だ。毎年震災のあった日に増田さんはポケモンセンターを訪れ、募金を呼びかける活動をしている。
福島県出身のオレには大変ありがたいことだが、身も蓋もない言い方をすると、募金というのはする側にこれといったメリットはない。もっと言うと金を失うだけだ。そこに実益はない。
しかし、彼が呼びかけた時に集まる老若男女・国籍を問わず集まった人の表情は、達成感と平和への祈りというメリットデメリットを超越する満ち足りたものだった。集まった人たちが普段どんな人かは分からない。でも、その時その瞬間の心は間違いなくヒーローそのものだったと思う。
トップクリエイターという存在である傍ら、善意を引き出し人をヒーローにするヒーローでもある。
そこにポケモンの生みの親たる原点を見たオレは、世界一憧れるヒーローたるあの人に認められるような人になりたいと強く願っている。
しかし、その結果背中を追うようにして挑戦したゲームクリエイターへの道は、始めからする会社を除いて就活中一度も面接に進むことはなかった。適性を考慮することもなく、憧れだけを理由に何の努力もせず、現実性が見えないまま進んだ結果がこれだ。
今はゲームクリエイターという道に僅かたりとも未練はなく、その失敗自体は乗り越えている。しかし、形を変えてでも追いつきたい。その気持ちは今でも変わることはない。
【異端者にして破綻者】
これを読んでくれている人は、オレが「自分がポッ拳以外のことをやっていると練習をサボっている気がする」と言ったらどう感じるだろうか。
「練習熱心なゲーマーの鑑だ」と感じる人もいれば「ゲームのことしか考えてないってどうなんだろう」などと感じる人もいるだろう。
"特別を得るために普通は求めない"
これはオレが勝つために自分を律する言葉だ。
例えば、家で冷たいジュースを飲むこと。友達と通話をしながら新作のゲームを遊ぶこと。好きな歌手のライブに行くこと。
人によって異なるだろうが、多くの人が上記のような日常を過ごすことはあるだろう。しかしオレはどうなのかと言うとほとんどそのような時間を過ごすことはなく、そもそも家に冷蔵庫がない。
一人暮らしということもあってろくに料理をしないこと。冷たいものを摂取することによる体の負担を回避すること。
一見聞こえはいいが、その根底にあるのはWCS参戦のための資金括りだ。自費での参戦となればざっと20万はほしい。それを年一で出すというのはなかなかにハードルが高い。
そもそもオレは英語もできなければ、プログラミングもできない。営業なんてしたことがないし、経営なんぞ何を言っているか分からない。お金になるスキルを持たないオレは、27歳になった今もボーナスさえ出ることのない一般企業の契約社員として働いている。恥ずかしい話だが、これが現実である。
しかし、それでもオレはWCS優勝の夢を捨てたくはない。諦めるなんてのは誰でもできる選択肢で、ならば現実を見たうえで実現のための選択を行う。
シワ寄せは決して少なくないが、常に物事の優先度を考えて行動する合理的判断。それを続けることが唯一の手段であるとオレは考えている。
しかし、こういった思考の一端を語った時、最上級の理解者の一人と思っている友人から言われたことがある。
"クロスさんはかっこいいと思うけど、その考え方についていける人はほとんどいないよ"
オレが初めて優勝したEVO JAPAN 2018の祝勝会でのことだった。やっかみで突っかかってくる他人の言葉ではない。良き理解者が打ち明けた、オレが忘れようと振り払ってきた価値観だ。
冷静に考えれば当たり前のことだと思う。幸運に恵まれ結果が出たからいいものの、0か100かで戦うなどやり方として破綻している。しかし、それでも勝とうとするオレの異端なる価値観は、傍にいる者ほど痛ましく映ったのだろう。
こんな人間だからか、生まれてこの方一度も恋愛という形で誰かと付き合ったことがないし、友達と接していても他の人といる方が楽しいんだろうなと感じることがとても多い。
このとおり、決して誰かに憧れられるような人生など歩んではいない。でも、オレ自身は無理をしているつもりなんてない。数年間を無駄にして借金にまみれ、放っておいても地獄に落ちる光を浴びることなんてなかった人生において本気で取り組めることがあることは幸運だと思うからだ。
そんなオレが願うことはただ一つ。
"ずっと支えてくれたポケモンたちと共に、オレだって
【ぶつけろ!正論】
今でもポケモン映画のエンディングを観ると、いつかここに名前を刻みたいと思う自分がいる。
こんなことを言っていると、かのスマブラを作ったトップゲームクリエイター"桜井政博"さんの言葉を思い出す。
"クレジットとは名前を残すためではなく、作品に対して責任を示すためのものだ"
こんな意味の言葉をゲーム雑誌の連載の記事なんかで読んだことがある。全くもってその通りだと思う。大雑把にポケモンに関わって名前を残したいなんて思うことが恥ずかしくなってくる。そして思い出す。
今まで何度も参加してきたポケモンのファンミーティング。その質問コーナーで「将来ポケモンに関わる仕事がしたいです」から始まる質問を何度聞いてきた?
"ポケモンに関わる仕事を"
"ゲームで1番に"
同じことを考えてる奴なんて腐るほどいる。なのに、あたかも自分が特別な存在であるかのように、自分の情熱が1番だとでも思ってたのか?
恩返しなんてただの口実。ポケモンに関わるんじゃなくて、また助けられようとしているだけ。馬鹿かよ!
山ほどいる志望者の中で、オレを採ることがポケモンにとって最大リターンであることを証明すること。あの人に並ぶってことは、超えるってことはそういうことだろうが!!
ビジネススキルに欠けるだけでなく、気遣いも決して上手くない。人前に出れば声は裏返るし、早口で何言ってるか分からない。顔は肌荒れするし、オシャレのセンスも絶望的。
でも、こういうオレの欠点は幸いなことに一つ一つを見れば現実的に直せる範疇のものばかり。ただ、その数があまりにも多いだけだ。
その現実とどう向き合っていくのか。他人に正論を叩かれても煩わしいだけ。ならば、その正論をどこまで自分に言えるかどうか。
"1番にならなきゃ意味ねえんだよ!"
— V3 | CrossIgarashi @9/8 KantoTournament4 (@CROSS130) 2018年6月10日
そう自分に言い聞かせてきたオレにとって3位という結果と、繰り上げによる現地予選からの招待権獲得というのは素直には喜べない。それでも海外プレイヤーのみどりさんやLCFとの「WCSで会おう」という約束を果たせることが嬉しい。8月も頑張ります! #CrossPJCS2018 pic.twitter.com/bsEWK3XMnB
"1番にならなきゃ意味ねえんだよ!"
日本代表決定戦の大会を終えてツイートしたこの言葉の真意は、たとえ世界の舞台に立とうとも勝ち上がらなければ観てもらうことさえ叶わないという現実を知っているからだ。
公式世界大会ポケモンWCS2016、開発元が別会社のタイトルでありながら、オレの願いを聞いてあの人が観戦に来てくれた時、オレは既に敗退していた。観てもらえたのはグランドファイナルを戦った2人だけだった。
勝負の世界、その厳しい現実。ゲームの中に留まらない、呆れるほどの自分の不足。それらとどう向き合い、乗り越えて勝利するか。考えて行動し続けることだけが、僅かながらも可能性を作ることに繋がっていく。
その過程で怖い時、不安な時は思い出せ。何のために向き合うのか。戦うのか。その原点が限界の少し先へと背中を押してくれると信じて。
【何故、今"ポッ拳"なのか】
こんなオレだが、今年はポケモンゲーム公式世界大会WCSへの出場権を自力で勝ち獲っている。思えば今年1月28日、EVO JAPAN 2018で優勝して以来、今までとは比較にならないほどの成績をあげてきた。
6月10日に行われたポケモンジャパンチャンピオンシップスで3位となり、公式ホームページのどこにも記載が見当たらない準優勝者への現地予選からの招待権利を繰り上げという形で手にしている。まったく我ながらよく出来た話だとは思うし、つくづく試されてるなとも感じている。
そんなオレがポッ拳というゲームに力を入れ始めたのは、ポッ拳初の公式戦となった闘会議2016にて家庭版の発売とポケモンゲーム公式世界大会WCSの種目になることを聞いたのがきっかけだ。
2016年では人生を諦めた負け組の巣窟のような会社を辞めて自費で挑戦したが、2017年は実力もお金も足りず参戦さえ叶うことはなかった。どんな思いで取り組もうとも、所詮はただの凡人だと何度自覚したか分からない。
そんなオレ個人の状態に加え、まだ歴史の浅いポッ拳というゲームは、他の対戦ゲームと比較して決して人口が多いゲームではない。情熱を持って取り組んできた多くのトッププレイヤーが来年も公式大会の種目として残るのか不安を抱えているし、そういうこともあってか少しeSportsに知識がある人ほど悪意のない無邪気な煽り行為をしてくる人がとても多い。
「ポッ拳一本でいくつもりなんですか?」
「◯◯っていうゲーム、始まったばかりで人口少ないけど勝ったらすげえ賞金貰えるんでやりませんか?」
関係ねえわ。1000万人の人口がいようとも、賞金1億積まれても関係ねえ。自分が好きな対戦アクションというジャンルで、 WCSという最高の舞台で戦えるのはポッ拳というゲームを除いて他にないのだから。
WCSにこだわるのは、ひとえに憧れの人の前で最強を証明できる舞台だからこそ。だからオレはこのゲームを始めから世界一になるために購入しやってきた。開発元が異なるので憧れの人から優勝トロフィーを受け取ることはできないかもしれないが、それでもこれが過去の失敗から学び、自らの適性を鑑みた最優の選択だ。
そんなオレはプロプレイヤーにまでなったが、そもそもポッ拳というゲームのコミュニティにオレが貢献してきたことなど微々たるもの。プロ契約をしたところで生活が変わることはなかったし、オレの行動にどれほどの価値があるのかは自分でも分からない。
オレが優勝することでコミュニティが盛り上がるなどという考えは微塵もないし、そもそも個人的目的が第一のプロってそれでいいのかという不安もある。
でも、このゲームみんな本気でやってる。それにぶつかり、勝つってことがどれほど価値があるのかをオレはよく知っているから。
だからどうか世界中の人に観て欲しい。正真正銘最強の座。それを世界中のプレイヤーが獲りにいくこの瞬間を。原点にかけて、オレも本気で獲りにいく。
配信はこちらTwitchから。
【最高のヒーローへ】
今までWCSで優勝することこそが人生最大の夢であり、それさえ叶うなら死んでもいいと思っていた。
でも、この手でこの足で、今WCSの舞台に立つ日を迎えて思うことがある。優勝して世界一になる。憧れのヒーローに追いつくってのは、超えるってのはその先に行くことなんだって。だからオレは勝つ!
いくぞ、ルカリオ、みんな。いつかの
そして、オレが憧れた
あなたの目の前で、正真正銘最強のプレイヤーになってみせます。観ててください!