今、オレに出来ることを

【はじめに】
 2018年1月27日(土)ポッ拳DX SPECIAL CUP at EVOJapan2018』優勝しました。
 応援やお祝いのメッセージをくださった全てのみなさん本当にありがとうございます!

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 界隈のプレイヤーはもちろんのこと、家族や友達も想像すらできなかった空前絶後の優勝。
 相方と幸運にも恵まれたEVOJapanポッ拳部門だったが、ここに来るまでのことを振り返ってみようと思う。


【本当の声】

 まず、ポッ拳を始めてから今回EVOJapanに参加するまでの非公式含む大型大会の結果を覚えている範囲で振り返る。

◆2016年
PokemonWCS2016(Bo3ダブルエリミネーション) Best16
第2回カントートーナメント(ダブルエリミネーション) ストレート負け 

◆2017年
ニコニコ闘会議2017(2on2) 初戦敗退
ニコニコ超会議2017(2on2) 初戦敗退
KSB2017(Bo3ダブルエリミネーション) ストレート負け
WCS2017愛知予選 第2予選落ち
WCS2017千葉予選 Best12 

◆2018年
第3回カントートーナメント(98人Bo3ダブルエリミネーション) Best48

 はっきり言う。弱い。自分なりに一生懸命やってはいたのだが、この結果で優勝を目指すのはあまりにも厳しい。
 それでも目標を下げることができないオレは、ツイッターのプロフィールにもプロプレイヤーを目指していると記載している。

"ポッ拳界で1番熱い漢"

 そんなふうに呼ばれることもあるオレは、当時国内外において無名のままWCS2016の現地予選に自費で参加し現地予選を突破。
 その後も勝ち上がり、Best16という無名にしては出来過ぎた結果で名を馳せたプレイヤーだ。

 それによってやる気と熱意を買われたオレは少しだけ有名となったが、これが落とし穴だった。
 買われているのはやる気と熱意であり、積み上げてきたものなど何もない。

 口先では大きな目標を掲げるくせに、それに見合った結果を出したことがないオレは関わる人を不安に陥れた。
 目の前では応援してくれるように振る舞うものの、現実と向き合い一人の大人として自立して欲しかったんだろう。

「(クロスには)好きなことに全力で頑張ってほしいけど、将来のことも気になるから一緒に頑張ってくれよ」

 実家に帰っていた兄弟から聞いた、父親のオレに対する本音だった。EVOJapan当日4日前のことだ。
 オレはいったい何をやっているのか。時間は有限。夢見てばかりでなく相応の現実を見ることの必要性を痛感させられる出来事だった。


友達ごっこじゃいられない】


 今回のEVOJapanがそうであったように、ポッ拳の公式大会ではしばしば2on2、つまりチーム戦がルールとなることがある。
 勝つためにそこで大事になるのは相方選び。当然強い人と組んだ方が勝率はぐっと跳ね上がる。

「誰か強い人を味方にしなくちゃ」「仲良くしてくれて強い人に即行声掛ければいける」

 今までそう思ってルール発表後即座に動いたが、何人ものプレイヤーに申し訳なさそうに断られ続けた。さながら就活のお祈りメールだ。
 強い人は既に別の強い人と組んでいたり、オレより早く声を掛けた別の人がいるというパターンだった。

 そこでようやく気付かされた。何故大会に参加するのか。当然勝つためだ。少なくとも自分がそうである以上、周りがそうであることに何の不思議もない。
 それを自らの実力も省みず、周りの人の良さに甘えてチームを組んでもらおうとしてた。馬鹿か、オレは……

 

"友達ごっこじゃいられない"


 いつも笑顔で話してくれる人たちがどんどんライバルに変わっていくその光景は、競争の場における現実をオレに突きつけた。
 戦いは既に始まっているんだ。そう気付いた時にはライバルは着々と準備を進めていた。

 そんな中、思わぬ人から声が掛かった。Mikukey選手。ポッ拳の公式世界大会WCS2017において2位というトップクラスの成績を出している、言わずと知れた世界屈指のシャンデラ使いだ。
 何故彼がオレと組もうと思ったのか。実は大会を終えた今でも分かっていない。

 そして始まった大会当日。各チームの番号札が配られ、マッチングが決定。対戦相手については番号しか分からないため、誰が対戦相手かを知るのにみんな躍起になっていた。
 かく言うオレも他チームの番号を聞いて回ったし、聞かれれば素直に答えていった。そしてオレが答えた時の相手の反応はどれも同じものだった。

「クロスさんのチームとは当たりたくないんですよねぇ」
「いがらしさん、誰と組んでましたっけ? Mikukeyさん!? うわぁ当たりたくねぇ……」

 当たりたくないのはオレではなく、相方のMikukey選手。仮にもトップを目指す人間である以上、誰が相手でもナメられたくはない。
 しかしほとんどの選手にとって、オレの存在は眼中にさえなかっただろう。相手のリアクションを見るたびに現実を突きつけられ、オレは拳を握りしめることしかできなかった。


【ヒーローとの約束】

 EVOJapanは海外からプロプレイヤーも参加しており、本家EVOでも実況を担当するようなトップコメンテーターも来日していた。
 その中の一人に"DC"という人物がいる。彼は2016年にオレがWCSに参戦した際に出会った人で、再会はその時以来だった。

 DCはポケモンカンパニーの一員であり、WCS2016でのコメンテーターはもちろん、オレが参戦することの叶わなかったWCS2017でもその成功を裏で支えたポッ拳界における超重要人物だ。
 今回EVOJapanで再会するにあたり、彼はオレにある約束をしてくれていた。

 2017年8月のことだ。WCS2017が開幕した時、招待選手にもなれず、自費で参戦するお金もなかったオレは不参加を悔しがる気持ちを英語でツイートした。
 その時それを見たDCが突然DMをくれとそのツイートにリプライし、その後驚くべきことを口にした。なんと参加者だけがもらえる特別なTシャツやグッズをオレに送ってくれるというのだ。

 驚いたオレはすぐに輸送に必要となる情報を彼に伝えた。
 なんて恵まれているんだろう。そう思わずにはいられないこの状況に感謝しながら、オレはそれが届くのを待っていた。

 しかし、2ヶ月経っても何も届くことはなかった。彼はとても忙しいうえに、オレだけが特別なものをもらえるなんて都合がよすぎる。
 そう思ったオレは無理しないでほしいと伝えたが、実は別の事情があったのだ。

 

「船での輸送はあまり信用できない。今度EVOJapanに行くから、その時に直接会って渡したいんだ」


 そう言って必ずプレゼントすると約束してくれた彼は、EVOJapan当日、約束どおりWCS2017のグッズを持ってオレの前に現れた。
 オレはグッズコレクターではない。でも、WCSという舞台には特別な想いがある。そのことを彼はとてもよく理解してくれていた。

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↑約束どおりWCS2017のグッズをプレゼントしてくれたDCと、アメリカポッ拳界で最も知名度があり日本人からも馴染み深いプロプレイヤーALLISTERとの貴重なスリーショット。

 プレゼントを持ってきてくれるDCに何かお礼をしたいと思ったが、あいにく何をすれば喜ばれるのか分からない。
 加えて英語が全く喋れないオレは、まともにお礼も言えないだろう。情けないとは思ったが、代わりに英語で手紙を書くことにした。

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↑前日の夜に書いた実際に送った手紙。文面がおかしいであろうことはさておき、せめて読める字であったことを願う。

 手紙を日本語にするとこうなる(英語版はツールが機能しやすいように言葉を簡単なものに直している)
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 親愛なるDCへ

 お久しぶりです。再びあなたに会えたことが嬉しいです。オレがあなたと出会ってから2年経ちました。あなたはどのように過ごしてきましたか?
 多くのゲーム配信を行い、PokémonCompanyのメンバーとしてWCSをサポートしました。あなたの活躍を聞くことがとても嬉しい。あなたはオレの誇りなんだ。

 一方オレはトレーニングを重ねた。大会を開いた。それは勝利のため、そしてポッ拳を盛り上げるために。
 しかし、それが成功することはなかった。あなたに応援されてきたにもかかわらず、良い結果を出せなかった。そのことをオレは恥ずかしく思っています。

 今日はとても緊張しています。オレはすぐに負けるかもしれません。
 でも、あなたと世界にバトルを観てもらえることが嬉しいです。ポッ拳にオレが来たってことをもう一度世界に見せるために! オレもヒーローになりたいんだ!

 いつも応援してくれてありがとう。
 今日は全力で楽しもう。そしてWCS2018でまた会おうね!
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 絶対チャンピオンになるんだ。時間が経っても、海を越えてでも約束を果たしてくれたDCの気持ちを無駄にしないために。
 大会開始直前、溢れそうになる感情を抑えつつオレは強くそう思った。


【みんな、本気でやってる】

 そして始まる1回戦。最初からとんでもないチームと激突することになる。

 過去に2onでオレのチームを初戦敗退に追い込んだ全一ピカチュウの筆頭候補メガちたんだ選手。
 ポッ拳最古参のプレイヤーにして、相方のシャンデラに有利な相性を持つゲンガー使いのトッププレイヤーおうじ選手。

 優勝してもおかしくないチームと初戦で当たることは、初めて見るプレイヤーも多く参戦していたEVOJapanにおいて非常に引きが悪い。
 加えて先鋒対象選びにおいて読みが外れた。「クロスルカリオ VS メガちたんだピカチュウ」「Mikukeyシャンデラ VS おうじゲンガー」となってしまい、相方が相性で不利な相手と戦うことになってしまう。

 DCへの手紙に書いた「オレはすぐに負けるかもしれない」との言葉が頭をよぎったが、彼の"頑張って"との言葉を思い出し気を取り直す。

"気持ちで負けないように! 絶対勝てるから!!"

 全試合の前に必ず相方へ言った言葉だが、今思えば本当は自分に言っていたのかもしれない。

 結果辛くもメガちたんだ選手を破ることに成功したオレだったが、フルセットまでもつれ込むも相方のMikukey選手がおうじ選手に破れてしまう。
 なんとかして自分より強い相手を倒したのに、またこのレベルを倒さないといけないのか!?

 内心そう思うオレだったが、今回のルールは2onの1本先取。気持ちで負け、先制を取られたらあっという間にやられてしまう。一方でこのルールは自分より強い相手と戦うには明らかに都合がいい。
 そしてもう一つ、Mikukey選手とのタッグが決まった時にポッ拳プレイヤーではない親友にだけ語ったことがある。

"相方の力だけで優勝なんて絶対にしねえ!"

 誰もが認めるトッププレイヤーと組んだからこそ、それで勝ち上がっても自分の力の証明にはならない。だからこそ、相方が勝てない相手にこそオレが勝つ。
 その気持ちと共に、用意した作戦を武器にオレはおうじ選手にも勝利。1回戦から強豪との激突となったが、この勝利が続く試合において強い勢いとなったことは間違いない。

 続く2回戦だが、なんとここは不戦勝で勝利。1回戦が不戦勝の相手との勝負だったが、エントリー時ではなく試合直前にシートへ名前を書く形式だったため名前が分からず、対戦相手を呼ぶことも叶わずに終わってしまった。
 エントリー時に名前を書いていれば、知っている選手が連絡を取る方法もあっただろう。これは運営の改善すべき点であると同時に、今後はエントリーしたなら最後まで戦うプレイヤーのマナーにも期待したい。

 3回戦はとみたけ選手のジュナイパーと、あふろん選手のマスクド・ピカチュウ。両者ともに以前は別キャラで名を馳せたプレイヤーだが、今回は新しいキャラクターで参戦だ。
 ルカリオとしてはジュナイパーの方が戦いやすかったが、ここでも読みが外れ「Mikukeyシャンデラ VS とみたけジュナイパー」「クロスルカリオ VS あふろんマスクド・ピカチュウ」に。

 Mikukey選手がとみたけ選手を破るも、あふろん選手の強気な攻めに押され接戦に持ち込むもオレが敗退。「Mikukeyシャンデラ VS あふろんマスクド・ピカチュウ」で決定戦に。
 勢いのあるあふろん選手の攻めはMikukey選手をも苦戦させフルセット。しかし、接戦の末にMikukey選手が勝利したことでオレは助けられた。

 トッププレイヤーが見せた貫禄の勝利と言っていいだろう。気持ちで負けない試合を体現し、ピンチを覆してくれた相方にはとにかく感謝したい。
 絶対に助けられる時がくる。だからこそオレも力になって共に戦い抜く。予想はしていたが、3回戦にしてそれは現実となった。

 続く4回戦。


EvoJapan2018 Pokken 2on2 : Top16


 なんと強豪チームを破り勝ち上がってきた当日斡旋のSPY選手と、しぜんこうえん選手のチーム。失礼ながらSPY選手しか知らなかったオレだったが、彼らが倒したチームは一般的にオレより強いとされるプレイヤーだった。
 そしてふと会場に目を向けると、既に敗れたプレイヤーが目を赤くさせ悔し気な表情で試合を見つめる姿が。

 正直、直視できなかった。彼らが感じているものは、これまでオレが何度も感じてきた感情に他ならない。
 勝負である以上、勝者がいれば敗者もいる。当たり前の現実が広がる中、これまでの自分を見ているようでなんとも言えない気持ちになった。

 でも、負けていい理由なんて一つもない。その気持ちを胸に、Mikukeyシャンデラがしぜんこうえんリザードンを、クロスルカリオがSPYマスクド・ピカチュウを破り勝利を収める。
 そして試合後、配信席から離れたあと普段はふざけた様子を見せることの多いSPY選手があまりにも悔しそうな表情でオレにこう言った。

"絶対壇上に行けよ!"

 その表情をほとんど直視できぬまま、オレは頷いて答える。こんな彼を見たのは初めてだったように思う。
 オレのようにトップになるんだと口にする者もいれば、普段はおとぼけでも本心ではトップに立ちたいと思っている者もいる。

"みんな、本気でやってる"

 大会という場に立つ以上、強さなど関係なしに誰もがトップを目指して凌ぎを削っている。勝って目標に近づくために。一番になるために。
 当たり前のそのことを、オレは大一番を前に思い知ることとなった。


【今、オレに出来ることを】

 そして始まる準決勝。相手はなんとWCS2016,2017を制した世界王者チーム。言わずと知れた名実ともに最強のプレイヤーぽてちん選手と、殿様選手だ。
 この戦い、キャラクターの相性的に殿様選手のジュナイパーと当たりたいオレだったがまたしても予想は外れ。「Mikukeyシャンデラ VS 殿様ジュナイパー」「クロスルカリオ VS ぽてちんミュウツー」の試合に。


EvoJapan2018 Pokken 2on2 : 準決勝1


 先鋒戦は世界王者を相手にMikukey選手が一歩も引かない戦いを見せるも、シャンデラの動きに対応を見せた殿様ジュナイパーが勝利。
 この戦いの決着がついた時点で会場はお通夜ムードだった。それもそのはず。オレが2人の世界王者を両方倒さない限り決勝には進めないという現実が定まったからだ。

 ぽてちんミュウツー戦の1ラウンド目、圧倒的なプレッシャーを前に成す術もなく1ラウンドを取られてしまう。
 正直言って、この戦いがEVOJapan全試合において一番キツかった。何せ相手が相手であると同時に、これまで破ってきた強豪相手への秘策が唯一通じないプレイヤーだったからだ。

 ラウンド2に入るまでの僅かな時間、オレはいろんな人のことを思い出していた。DCのこと。倒してきたライバルたちのこと。負けていい理由なんて一つもない。
 トップに立つってこんなにも重いのか。その重圧に耐えつつ、世界一の壁を破るのはこれまでの戦い全てにおいて最大の決戦と言っていい。
 そしてラウンド2、劇的な逆転を見せたオレは、勢いそのままにラウンド3を制して勝利。この戦いほど気持ちで負けなかったことが勝因の試合はなかったと思う。

 さらに続く殿様ジュナイパー戦。どのキャラを使わせてもトップクラスの実力を持ち、新キャラのジュナイパーさえもいち早く仕上げた正真正銘の最強だ。
 そんな相手だったが、先程のお通夜ムードとは異なり、会場は一気にオレの味方になっていた。これなら可能性はある。そう思えたのはオレには大一番で勝つための秘策があったからだ。

 それは、誰しもがMikukey選手だけを警戒していること。オレのことは眼中にないこと。悔しくはあるが、だからこそ成立する作戦。
 今はまだどうやっても世界チャンプと一般プレイヤーだ。2先3先じゃまだ到底敵わない。でも……今、オレに出来ることを!

 不利フレームからの前ジャンプ空中Y。様子見からの安定行動に出ようとする相手の裏をかく起き上がり弱攻撃。ブロックステップキャンセルで釣った空中行動を狩る構え弱攻撃による対空。
 動画や日頃の対戦から見える相手の行動の癖。反応速度。大会という場の雰囲気と現在の状況における心理状況。オレへの個人的対策のなさ。そして1回戦で対戦したメガちたんだ選手が別の大会で教えてくれた「ジュナイパーはとにかく上を見ろ。アクロバットだけはくらうな」というアドバイス

 分析と予測。そしてキャラ対策以上に人対策をして大番狂わせを狙いにいく強気の行動の数々。
 おそらく二度は通じないであろう作戦を通し、クロスルカリオが勝利。オレたちは決勝へと駒を進めた。

 この試合を見た多くのプレイヤーからありがたい称賛の言葉をもらったが、中でもミュウツー使いのトッププレイヤー"がにこす"は、拍手で真っ赤にした手を見せながら真っ先に駆け寄って褒めてくれた。
 これまで何一つ成果を残せなかったオレにとって、初めて界隈に実力を認めてもらったと感じた瞬間だ。

 そして遂にやってきた決勝戦。相手は平均年齢16歳の高校生チーム、レッド選手ときょろ選手。次世代のトッププレイヤーが相手だったが、最後の最後でくじ運に恵まれる。
 先鋒大将の予想が的中し「Mikukeyシャンデラ VS レッドミュウツー」「クロスルカリオ VS きょろダークミュウツー」のカードになったためだ。

 この試合を前にオレは着替えを済ませている。これまで大会時に愛用してきたWCS2016のTシャツではなく、DCがくれたWCS2017のTシャツに変更したのだ。
 DCが、世界中のポッ拳プレイヤーが、かつて凌ぎを削ってきたスマブラプレイヤーが見てくれているであろうこの舞台で優勝を。応援してくれる全ての人に応えるために、オレは必勝の覚悟で戦いに望む。


EvoJapan2018 Pokken 2on2 : Finals [ENG]

日本語版はこちら「EVO Japan 2018」DAY2 | AbemaTV(アベマTV)の7:11:00頃から。

 まず先鋒のMikukeyシャンデラが、その圧倒的な強さでレッドミュウツーを撃破。世界No.2としての有無を言わさぬその実力は、後に控えるオレの背中を押すには十分すぎるものだった。
 迎えるきょろダークミュウツー戦。普段は絶対に構えることのない指の配置で試合を迎える。絶対にあの技がくる。ならば、開始瞬間に……!

 予想どおりダークミュウツーが弾を撃った瞬間、オレのルカリオは"はどうだん"を撃ち命中させていた。弾強度で勝り、全ての弾を消したためだ。
 これはポッ拳プレイヤー最古参の一人にして、とても仲良くしてもらっている"やよいチャレンジ"こと"やよいさん"ルカリオとオレのダークミュウツーで対戦した時に学んだことだった。

 そしてこの試合の最後、あと少しのところまで追い込んだオレは、相手がテレポートで上に移動したのを見た瞬間に対空。そこからのコンボで倒し、優勝を勝ち取った。
 見ていた多くのプレイヤーから後に心眼だと讃えたが、実はこれもやられて覚えたことの対策に他ならない。

 別のダークミュウツー使いトッププレイヤー"さるたろうさん"との戦いでテレポートで空中に移動したダークミュウツーからの奇襲をくらい敗北した際に、その行動の有用性について教えてもらったからだ。
 どの試合も、どんな敗北も、全ては明日の勝利のために。みんなが教えてくれたことが力になり、支えが力になり、オレはEVOJapan初代チャンピオンとなるに至った。


【それぞれの胸に】


 決勝戦後のインタビューでは、ポッ拳の開発者であるバンダイナムコの星野さんから「まさかいがらしが優勝するとは思わなかった」とネタにされたが、喜んでくれるその様子がオレにはあまりにも嬉しかった。
 自分が開発したゲームにおいて、トップに立ちたいなどと言ってくるファンはごまんといるだろう。それでも星野さんはオレの言葉を、夢を、一度も哂うことはなかった。

 オレの優勝はポッ拳界はもちろん、かつてライバルとして凌ぎを削ったスマブラプレイヤーを始め、各界の人が共に喜んでくれた。もちろん家族も含め。
 ただ、優勝報告を受けた母からはどこからそんな話が出てきたのか「本気でゲームで生きていくなら、英語も勉強しなさい。海外の方が可能性があるんでしょ?」と叱咤激励を飛ばされた。これまで親として全く弱みを見せずに振る舞ってきたオレの両親だからこそ、オレには今回のラッキーに甘んじるなと言いたいのだろう。

 そして大会の直前に本音を伝え聞いた父からは、何の音沙汰もなかった。別段仲が悪いわけでもなく、ひどく厳しいわけでもない。
 ただなんとなく忘れていただけとは知りつつ、家族を安心させるには程遠いことを思い知る。

 EVOJapanはチーム戦にして一本勝負。これは最も実力が結果に反映しにくいルールだ。事実オレにはトッププレイヤーになった実感はなく、むしろこれからが本番であることを誰よりも強く感じている。
 シングルス2本先取ダブルエリミネーションという、最も実力が反映されやすいルールでも勝利を。課題はまだ山のようにある。

 EVOJapan最後の予告では、春先に次なるポッ拳公式大会が幕を開けることが知らされる。あくまで予測だが、これはWCS2018の招待枠をかけた戦いになると思う。そして6月にもその枠をかけた日本代表決定戦ポケモンJapan  Champion Shipsの開催が決定している。
 みんな今まで以上に修行を重ね、本気で勝ちにいくだろう。もちろんオレも勝つために戦う。

 強さとは何か。プロとは何か。まだ分からないことばかりだけど、オレはこれからも戦い続ける。世界一憧れる人に成長したところを見せるために。
 最後になるけど、いつも一緒に戦ってくれてありがとう。次も勝ちにいこうぜルカリオ

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