心がこもりすぎているってなんだ

オレにとって今年最も記憶に残っていること。それは"Pokémon World ChampionShips 2018"を置いて他にない。

"EVO JAPAN"での初優勝からプロプレイヤーへ。世界中のプレイヤーからの推薦を受け、単身アメリカへと乗り込んだ"SwitchFest"での優勝。公式大会3位入賞からの繰り上げで公式世界大会出場権獲得。

主に前半は試されていると感じない日がないほどのことがありながら、それらを幸運にも乗り越えてくることができた。

しかし、オレが今最も大切にしている舞台でまさかの大敗。

そのことについて自分では乗り越えたつもりでいても、ふとした失敗で幾度となくあの日の敗北が頭をよぎる。


プレイングが、取り組み方が軽い。

上振れしていただけ。

No.1には程遠い。


誰に言われたことでもなく、自分が自分に感じる感想だ。

WCSでの想いは、WCSでしか果たせない。あの日の敗北をオレはまだ許してはいない。それはオレの原点に関わるものだからだ。


そんなことを考えていると、いつもとある格闘ゲームの戦いを思い出す。

ストリートファイタートッププレイヤーの対戦だ。

 


オレはストリートファイターシリーズは小学生の頃にストⅡをやっていたくらいで、動画のものがナンバリングいくつのものかも分からない。

大変失礼なことを隠さずに言うと、対戦している"クラハシ選手""オゴウ選手"のことさえ全く知らなかった。それでもあまりにも衝撃的だった。

格ゲープレイヤーなら知らない人はいないであろう実況者"アールさん"が言っているとおり"心がこもりすぎている"のだ。

ゲームも知らない。プレイヤーも知らない。それでもこの戦いはオレに与えていた。今までに見た全ての対戦ゲームシーンを凌駕する衝撃を。

あの日の敗北に。オレの原点に。もしその想いを果たすことが叶うのなら、この戦いにこそヒントがあるんじゃないかと。だからこそ何度も考えた。


"心がこもりすぎている"ってなんだ。

 


【挑むもの。背負うもの】


2018年12月2日

ポッ拳スマブラシリーズなどを集めた合同大会の2日目のことだ。

オレは17位タイという初優勝後最悪の結果に終わった。

その間近ではスマブラDXの大会が行われており、そのグランドファイナルを行なったのはVGBC所属の"aMSa選手"と、日本トップクラスのフォックス使い"Sanne選手"だ。

aMSa選手は日本最強のプレイヤーにして、現在世界最強のプレイヤーと互角に渡り合えるほぼ唯一の日本人プレイヤーである。

日本人のレベルは確かに上がっているが、世界最強と渡り合えるのはaMSa選手において他はなく、国内大会においてはaMSa選手を除いた2位争いになるのが常と聞くことも多かった。

それほどの絶対的強者に挑むにあたり、Sanne選手と縁があったオレは当日ある決意を聞いていた。


"ごめんなさい。今日は絶対aMSa倒すんで、ポッ拳棄権させてください"


ポッ拳スマブラDX、ARMSでの合同対戦交流会においてポッ拳をプレイしていたSanne選手は、この合同大会でもポッ拳部門に参加することを一つの約束としていた。

しかし、日本において並ぶものなき存在と化したaMSa選手をその手で倒すべく、彼はポッ拳部門の棄権をオレに申し出たのだ。

最強を目指すうえで自分より強いとされるプレイヤーに勝つということがどれほど難しく、また言い知れぬ価値があるかをオレはよく知っている。

快く承諾したのだが、そんな申し出をしたSanne選手は宣言通りaMSa選手を一度破り、ついにグランドファイナルへ。

aMSa選手が絶対的な強さを持つからこそ、会場はSanne選手の活躍に熱狂する。

スマブラDXは10年以上前のタイトルで、最新作と比べ日本においては決して大きいコミュニティではない。

しかし、その圧倒的なまでの熱量にオレは物理的にも感じられるほどの衝撃を受ける。その場にいた多くのプレイヤーが目に涙を堪えながらSanne選手の名を力の限り叫び、その勝利を祈っていたのだ。

地響きにも似たその声援は、Sanne選手にも間違いなく届いていたのだろう。

フルセットの末、Sanne選手はついに絶対強者aMSa選手に勝利。そして優勝を成し遂げた。

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どんなに応援はされても、現時点においてaMSa選手がNo.1だ。万人の認識はそう易々と覆るものではない。きっとSanne選手は嫌というほどそれを実感してきたと思う。

だからこそ成し遂げたこの偉業。その場に居合わせた全てのプレイヤーを涙させるそのプレイングは、まさしく"心がこもりすぎている"ものだった。


そして、惜しくも敗れたaMSa選手は"プロとしてこの結果を不甲斐なく思う"という旨の言葉を残した。

たった一敗したことを、彼はこの上なく恥ずかしいことだと言ったのだ。これはSanne選手を格下と見ていたわけではない。プレイヤー業に専念し、多くの人に応援されていると自覚しているからこその言葉だ。

これを聞いた時、オレはその場にいることが恥ずかしくなった。仮にも同じプロプレイヤーだ。悔しいのはもちろんのこと、2位であることをこんなにも恥ずかしく思っている人がいるのに、17位タイだったオレは何の価値もない。


"心がこもりすぎている"ってなんだ。


オレのポッ拳が、オレそのものが、なんでこんなにも軽く感じられるのか。

偶然にも同い年であり、長きに渡ってプロとして活躍してきたaMSa選手の前ではオレの存在など無価値にも等しい。

それを認めたうえで、次どうするのか。そのことをオレは考えずにはいられなかった。

 


【プロのプライド】


12月某日。ポッ拳プレイヤーの1人"Green Energy Manさん"が、プロストリーマーとして活動することを発表。

喜びと期待の声が上がると同時に、ツイッター上ではこのような声もあがっていたことをオレは見ていた。


"プロってなんなの"

"お金は出てんのかな"


どういう経緯でプロストリーマーとして活動することになったのかオレは未だによく分かっていない。

しかし、昨今のeSportsの発展に伴い、身近な存在が企業と提携し、プロ活動を始めるという宣言を行うことはあまり珍しくなくなったように思う。

現にオレもその1人であり、その時一部からは"プロのバーゲンセールだな"と揶揄されたことも覚えている。今回の件についても同様の意味だろう。

この件について彼は特に言及することはなく、いつもどおりの軽いノリで、ネットもリアルも変わることのない態度で振舞っていた。


そんなある日、ゲーマーによるゲーマーのための祭典"C4LAN"が開催。ジャンルを問わずゲームを持ち寄り、何百人ものゲーマーが数日に渡りゲームを行うイベントだ。

ポッ拳コミュニティもそのイベントに参加する傍ら、ステージ上でのイベント開催に名乗りをあげる。

そこで実況を務めることになったのがGreen Energy Manさんだった。配信が行われていたこともあり、彼にとってはプロストリーマーとしての初陣と言っていい。

当日はいつもどおりの軽いノリで振る舞う彼だったが、ステージイベント数時間前になると突然一人机に向かって何かに集中し始める。

何事かと思いそっと覗くと、なんとステージイベントで使用する実況メモを書いていたのだ。

この時のイベントは所謂ガチ勢が行うトップクラスのバトルとは相反し、全くポッ拳を知らない人も楽しめる超シンプルにした特別ルールでのバトルだった。

それ故に、彼は初めての人が抱くであろう疑問点をまとめ、数名交代で行う解説役への振りをメモしていたのだ。

初心者の疑問解決と、決してプロではない慣れない解説役を務める相方数名への同時配慮。

プロ活動発表当日、彼のプロ化を嗤っていた奴らはこのことを予想していただろうか。きっと何も考えてなどいなかっただろう。

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この世のプロ全てがそうとまでは言わない。言えない。それでも、それを名乗ることの有用性以上に背負うものの方が大きいことを、実際になった多くの人は分かっているはずだ。

仮にも同じeSports界におけるプロであるオレは、Green Energy Manさんの隠れた努力と本気に、それまでの彼とは違うものを感じた。

もちろんプロだけじゃない。みんな本気でやってる。少しでも気を抜けば、あっという間に無価値のままその他大勢にさせられてしまうのが今のeSports界だ。それだけ努力を積み重ねている人が多い。

だからこそ、普段ノリの軽い彼がプライドをかけて壇上に立った姿を見た時、その"心がこもりすぎている"実況にオレは胸を打たれたんだと思う。

そして彼は、見事ポッ拳コミュニティをステージイベントで最も盛り上がった賞の獲得へと導いた。

 

 

【キミはこのままでいい】


先日、かつてそこで勤めて活躍したいと憧れたゲーム会社"ゲームフリーク"に所属している先輩と飲む機会があった。

先輩とは学生時代ほんの少し面識があった程度だったが、唯一接点となっていたFacebookでオレのeSportsに関する報告等に興味を持ってくれており、それがきっかけでサシで飲む機会をいただいた。

その先輩は超がつくほどの変わり者であり、当時同世代で学校にいた人はプログラマーとして比類なき観察力を持つ存在として知らない人はいないと言っていい知名度を誇っていた。分かりやすく言えば学校でNo.1のプログラマーだ。

ゲームセンターでバイトした時に学んだという凄まじいまでのゲーム知識は、アーケードゲームから家庭用ゲーム、スマホゲームに至るまで、かなり古い年代のものから最新に至るまでその大半を網羅している。一度話せば誰もが舌を巻くことだろう。

始めに当時大手だったスマホゲーム会社に勤めた先輩は、ある日"ポケットモンスターXY"におけるヒトカゲの炎のエフェクトを見て、ゲームフリークの技術力の高さに興味を持ち見事入社を決めたのだという。

その話の数々に、当時学校No.1だったこの人がオレにとってNo.1のゲーム会社に勤めたことは当然のことのように思えた。


そんな先輩はeSportsについてもとても興味があるようで、現在プロとして活動するオレの話を聞いてみたかったそうだ。

活動について話せる限りのことを伝えると、先輩は何故オレがゲームクリエイターではなく、プロゲーマーの道を選んだのかを尋ねてきた。

そこでオレは憧れの人であるゲームフリーク"増田順一さん"について、その思うところを語り伝えた。それこそがオレという人間の原点だからだ。


しかし、何をしても自分のことが軽く思えて仕方がなかったオレは、まだまだな実情を打ち明ける。

一番大事なところで負けたのは逃れようのない事実だ。そこを始め足りないところが山のようにあり、この一年オレはこれ以上ないほどに背伸びし続けて過ごしてきた。

どんな時も笑顔で、自信を持ってトップを目指す宣言とそれに見合った努力を重ねること。

それこそがプロだと思い振る舞っていたつもりだったが、ゲーマーではない古くからの仲間には"イキってるように見える"と一蹴された。オレという人間の中身が空っぽ、つまり軽く感じられたのだろう。

だからこそ良いところばかり伝えるのは、憧れの人に嘘をつくようで居たたまれなかった。


すると先輩はあるゲーマーの話を聞かせてくれた。"THE KING OF FIGHTERS"(通称KOFシリーズにおいて、特異な活躍を見せた地方のゲーマーの話だった。

彼は周りに同じゲームをする対戦相手がいなかったことから"覇気脚キャンセル"という超高難度のテクニックをひたすら練習し、優勝候補を破ったのだという。

あとで調べてわかったが、とんでもなく難しく実戦ではまず安定しない。対戦相手がいないためまともに練習ができない環境で、彼はひたすらその練習を重ねたのだ。


"頭おかしいよね。でも、俺たちが観たいのはこういうヤツなんだよ"


笑いながらそう語る先輩の話を聞き、オレはクラハシリュウVSオゴウガイルの戦いを思い出していた。

そこには金も名誉もない。あったのは、ただ"勝つという信念"だけだ。

そしてオレは気がついた。それが何も知らない人間さえも圧倒する"心がこもりすぎている"戦いになったのだと。


このことを伝えると、その対戦を見ていたのだという先輩は同意を示してくれた。そしてその後、オレは衝撃を受けることになる。帰り際、その日話したことをまとめ先輩がこう語ったからだ。


"この先どうなるかは分からないけど、キミの信念は間違ってないよ。キミはこのままでいい"


学生時代のクラスメートと話すと、オレが一番変わったとよく言われる。それもそのはず。何の個性もなく、ろくに努力をしなかったオレがよもやゲームで勝ち上がり世界に行くなど誰が予想しただろうか。

そこにある驚きとは、ゲームで世界にという以前に"オレが"それを成し遂げたことにある。つまり根本的に期待値が低いということだ。付き合いの長い仲間でさえ、その大半が人として格下の人間であると頭の中で決定付けている。それを言葉や態度の端々からオレは理解している。

しかし、だからこそ憧れの人への想いだけでここまできたオレを先輩は賞賛してくれた。

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本当にこれでいいんだろうか。オレなんかに何ができるんだろう。そう思う気持ちは今でも消え去ることはない。

それでもなお、憧れの人とともにポケモンの世界を作り続ける先輩が言うのなら自分を信じてみてもいいと思えた。

2018年、背伸びと上振れの一年だった。じゃあ2019年はどうか。それを決めるのは他でもないオレ自身だ。