プロの条件

 昨今ゲーマー業界ではeSportsと呼ばれる対戦ゲームの競技化に伴う様々な問題と発展から"プロとは何か"について議論が行われている。

 そんな中、2018年3月9日オレはeSportsチーム"V3Esports"(以下V3)に加入することを発表。

 プロゲーマーとは、例えば車の免許のような資格取得はなく、明確な定義がない。ゲームをしてお金を稼ぐことが定義だとすれば、例えばYouTuberなどもそれに該当してしまう。それはもうYouTuberとして確立しており、わざわざプロゲーマーと言い直す必要はない。

 そんな中で一般的に定義のように認知されやすいものとして、団体からスポンサード(支援)されていることというものがある。この不明確ながら比較的認知度の高いものにオレは該当することとなった。

 しかしオレは、発表時のツイートおよび100を超える全てのお祝いメッセージへの返信において、自分は"プロゲーマー"だとは一言も言わなかった。それが何なのか。自分にその資格があるのか分からなかったからだ。それからというもの

"プロとは何か"

 自らのありとあらゆる行動と思考において、それを考えることがとても多くなった。その過程で多くのプロ、またはそうなり得るであろう人から学び、感じたことをまとめてみようと思う。

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【プロの誇り】

 V3に所属してから最初の公式戦となるSpringFist。日本の公式戦では珍しい2本先取制のダブルイリミネーション(敗者復活戦がある)というルールが採用され、実力がより結果に反映されやすいルールでの戦いとなった。

 チーム所属後初ということもあり、チームのマスターが見守る中で初戦からEVO JAPAN4位の強豪"clown選手"のジュカインと激突。これを破るも続く2回戦で公式世界大会2位にしてEVO JAPAN優勝時の相方"Mikukey選手"シャンデラにストレートで敗退。

 ルーザーズトーナメント(敗者復活戦)に回ってからは、マスクド・ピカチュウガブリアスサーナイトそれぞれをパートナーとした強豪プレイヤーを倒し続け、その後一度敗退しているMikukeyシャンデラと再戦。

 チームのマスターが観ていることから、オレを採用したことを後悔させないようMikukey選手だけは彼の目の前で倒さなければいけないと思っていた。EVO JAPANは2人の勝利であり、オレがチームに所属することとなった一因だからだ。結果は2-1で勝利。

 

 しかし、その後対戦したゲンガー最強候補筆頭の"たるたろ選手"に1-2で惜しくも敗退。予選通過とはならず、Top16に終わった。

 

 多くの強豪を破ったものの、それでも予選敗退という事実。世間からはプロとして見られる一方で、昨今の発展によって生まれた量産型だと厳しい目も向けられることだろう。

 その一方で日本人選手においてポッ拳界で最も早くゲーミングチームに所属しており、名実共にプロとして認められている"あざぜる選手"は予選を突破。

 壇上に上がることが確定した彼に悔しいながらも「おめでとう。やるじゃねえか」と言うと、いつもの飄々とした様子でこう返してきた。

"おう。俺はプロだから"

 悔しかった。照れ隠しと自身のキャラクター性から出る煽りじみた表情と言葉だったが、自らを"プロ"と名乗るその覚悟を確かに感じたからだ。

 彼は2016年の公式世界大会に繋がる国内予選において、明らかな制作側の調整ミスによるあまりにも脱出困難な攻撃(所謂ハメ)を破り、日本代表選手となった。

 この戦いの後に彼はプロチームに所属。以後長きに渡りプロとして活動している他ゲーム出身のプロプレイヤーとも肩を並べ、イベントの出演も行なっている。

 世間から見れば出演者の経歴など関係がない。同じプロゲーマーとして同等の厳しい目で見られる一方で、おそらくは他のプロゲーマーからは「誰だお前は」と思われている可能性があることを彼自身が1番よく知っていたはず。

 その多くのプレッシャーを跳ね除けてきたからこそ、あの言葉が言えたことをオレは分かっていた。

 それに比べてオレはなんだ。ずっとなりたかったプロゲーマー、どういう形であれ世間からそう見られる立場となったにも関わらず、自らそう名乗ることはなかった。

 明確な定義がないこともあっての謙遜のつもりだった。でも、そこに1%でも逃げの気持ちがなかったかと己に問いただすと返答のしようがない。馬鹿かオレは……

 どんなにプレッシャーがあっても、堂々とした在り方を見せるあざぜる選手に"プロとは何か"その回答の一つをオレは見せつけられたように思う。

 その日の夜、オレは自身のツイッターのプロフィールにプロゲーマーであることを明記した。落ち度があっても現実と向き合う。その覚悟を自身に示すために。



【全てを力に】

 SpringFistの後には打ち上げがあり、オレはその日実況解説を務めた"ふーひさん""おおさかさん"と共に過ごしていた。

 そこで上記のことを打ち明けると共に、オレはもう一つ気付いたことを話した。それは"幸せになる覚悟"がオレにはなかったことだった。

 オレは過去に大きな成功を成した人間ではなく、ましてや奨学金という名の借金を背負う身で、誰に羨ましがられるような人生を歩んできたわけでもない。

 V3に所属したとはいっても専業ではなく、主な稼ぎはとあるコールセンターのような仕事の契約社員でしかない。

 かつて4年間専門学校に通いゲームクリエイターを目指した就活では、一度足りとも面接に進むことなく惨敗。とある会社に就職するも、安月給と度重なる出張、社員の病的なまでの負け組感漂う人生観に将来を見失いそうになったことから退職。

 続く第二の会社では、高額の給料の代わりに漫画かドラマでも見ているかのようなブラック企業に心を折られ2ヶ月で退職。

 第三の会社が今のものであり、今までの中で一番環境はいいものの、おそらくAIの発展と共にあと数年でオレがやっているレベルのことは仕事として成立しなくなることに気付いている。つまり、オレの代わりなどいくらでもいるということだ。

 社会的価値の低い人間。その自覚があるからこそ、オレは自らプロゲーマーを名乗ることをしなかった。

 でも、それを聞いたおおさかさんはオレにこう言った。


"人は誰かに許されたくて生きている"

 それは自分にかもしれないし、あるいは他の誰かにかもしれない。

 お金や仕事のスキルに悩まされる度に、オレはいったいいつまで過去の清算をしなければいけないのかと思うことがある。

 でも、そんなオレがやっとプロゲーマーと呼ばれるところまできた。もちろん借金の返済など課題は山積みだ。挑戦をしていく以上、課題は過去の清算だけに止まらない。

 それでも、オレは選ばれてここまできた。勝ち獲ったんだと自分を認めていいことに気付かせてもらった。

 きっとあの言葉は、他の人から言われたら同じように感じることはできなかったと思う。大切なのは何をした人か、している人か。

 ポッ拳においてオレが知らない初期時代からコミュニティを支え、オレが優勝したEVO JAPANでも実況解説を担当。今なおポッ拳を盛り上げてくれる人だからこそ胸に響く言葉だった。

 そしてふーひさんからはこんな言葉が。

"身の丈に合わないものを被っていた方が人は成長できる"

 オレが初めて接したポッ拳プレイヤーであり、以後プレイヤーとしては離れるも、今度は実況者として公式イベントに出演することとなったふーひさん。

 今後はポッ拳非公式イベントや他の場で経験を積みつつ、次世代の実況者として大いに活躍していくことだろう。

 そんな彼もまた並々ならぬ困難を乗り越え今があることをこの時教えてもらうことができた。

 そもそも実況者とは気軽にできるようで、一般の人とプロが行うそれとは比較にならない。にも関わらず経験を積むことは容易ではないため、これからも厳しい場に何度も出くわすことだろう。

 しかし、ふーひさんならそれを乗り越えられると確信したことがある。SpringFist一週間後のイベント『第2回カントーポッ拳だいすきクラブ』のサブイベント、登場後僅か1日しか経っていないカメックスの実況において発した一言だった。

"生意気な補正切りはパワータイプの特権"

 鳥肌が立った。これは大規模大会『第3回カントートーナメント』優勝者の最強ガブリアス使い"ばんぎ選手"ツイッターにおける一言だ。

 同じパワータイプであるガブリアス使いだからこそ出てくるこの絶妙な言い回しを、ふーひさんは逃さず自分のものとしていた。

 経験を積むのが容易ではない実況の世界において、常にあらゆるものから吸収し、己の道へと役立てようとする姿勢。

"プロとは何か"

 これからプロの実況者として成長していくであろう彼は、早くもその片鱗とプロであることの答えの一つを見せてくれたように思う。



【コミュニティに熱を】

 話は少し戻り、SpringFistにおいてポッ拳と共に種目の一つとして選ばれていたARMSというゲームがある。

 ARMSとはSwitchで発売された対戦ゲームの一つで、その歴史はまだ浅い。オレはこのゲームをプレイしたことはないが、ポッ拳とARMSのコミュニティが合同で大会を開くにあたり、ARMS界を牽引する"げんげん選手"そして"CALM選手"と友達になることができた。

 そんなこともあってSpringFistのARMS部門は楽しく観戦していたが、一つだけ疑問があった。今やプロチームに所属し活躍する"Pega選手"が快進撃を続ける中で、壇上に上がるプレイヤー以外も声を上げ、凄まじい熱気に包まれていたことだ。

 まるで全員が壇上に上がるトッププレイヤーを本気で応援しているかのよう。一方でそのほとんどが自身もまたプレイヤーであるにも関わらず、外野から見る限り悔しさのような感情が見て取れなかった。

 一方のポッ拳はといえば敗北後も元気に声を出すようなプレイヤーはほとんどおらず、壇上に立ったプレイヤーが所謂身内でない限りは静かに観戦といった様子だ。公式世界大会の出場がかかった大会に負けたのだ。悔しくて当たり前に決まっている。

 かく言うオレもその一人で、とても声を張り上げて誰かを応援するような気持ちにはなれなかった。プロにもなっておいて、負けてへらへらしてるような奴と思われるのも癪だったからだ。

 そのため、ポッ拳プロデューサーの"星野さん"から「いがらし~ARMSめっちゃ声出てるからポッ拳も頼むよー」と言われていたが、ハァ……と空返事を返すばかりで、拍手こそしていたものの声を張り上げるようなことはしなかった。

 ARMSのPega選手の活躍ぶりは見ている分には面白いが、もし自分が同じゲームでトップを目指すプレイヤーだとしたら黙ってはいられない。

 本気でトップを狙っているのだとしたら、他の壇上に立てなかったARMSプレイヤーはなんとも思わないのだろうか。オレには不思議で仕方がなかった。

 その疑問を抱えたまま1週間が経過。ポッ拳の対戦会イベントで再開したげんげん選手と共にスマブラDXのプレイヤー"bozitoma選手"から五神と呼ばれるスマブラDX界のスター選手の話を聞いていた。

 正しく"プロとは何か"その好例を聞く一方で、1週間前から抱えていた疑問をそれとなくげんげん選手に投げかける。ARMSプレイヤーはいつでもあんな感じなのか、と。

 彼もまたプレイヤーの一人だ。あの大会の時、壇上の下で選手を見上げながら何を考えていたのか知りたかった。そして、そこで返ってきた言葉にオレの予想は裏切られる。

"大会は盛り上げるけど、打ち上げではみんなすごい悔しがる"

 当たり前のことだった。なら、何故彼らは声を張り上げるのか。それはまだ歴史が浅く、プレイヤー人口も決して多くないからこそ、コミュニティ全体でタイトルの熱気をアピールする必要があったからだ。

 ストリートファイタースマブラのような巨大なコミュニティであれば、プレイヤーと裏方など役割が明確に分かれていても人材不足には陥らない。

 でも、まだ発展途上のARMSやポッ拳で大会スタッフ等の裏方をしている人は、プレイヤーを兼任している場合がほとんどだ。人口が少ない以上、誰かが率先して動かねばコミュニティの拡大が見込めない。

 だからこそ個人の感情を抑えて熱気をコミュニティ全体で伝え、反省は後から行っていた。

 SpringFistにおいて3タイトルのラストを飾ったのはポッ拳であり、公式世界大会の切符もかかっていたことから一番の目玉となっていたのは間違いない。にも関わらず、コミュニティ全体がより熱気に包まれていたのはARMSだったように思う。

 プロになったくせにコミュニティのことを考えず、自分のことしか考えてなかった。壇上に上がった選手を次の大会で倒すために黙って動画を撮ってた。

 んなもんTwitchのタイムシフト見とけよ。負けてもへらへらしてると思う奴には思わせとけ。関係ねえ。上にあがりゃあ関係ねえ。なのに、何やってんだオレは……

 当日も感じていた反省点に上乗せするように、プロとしての初戦、オレの成績も振る舞いも全てにおいてプロ失格だったことを思い知る。

 プレイヤーでありながら数々の大会を主催し、TwitchアンバサダーとしてSpringFistにおけるARMSの配信チャンネルとして採用されるまでに育て上げたげんげん選手。発展途上のタイトルのプロがどう振る舞うべきか、オレは彼からそのヒントを教わった。

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【積み重ねていくこと】

 3月31日。付き合い5年を超える仲間が持ってきた不思議な縁により、.hackシリーズで知られるゲーム会社サイバーコネクトツー"松山社長"に会ってきた。

 松山さんは自身が執筆した本"エンターテイメントという薬"の感想を送ったオレの仲間の「会って話がしてみたい」とのツイッター上のリプライに「じゃあ会いましょう。いつがいいですか? 会社を案内しますよ」と返答したのだという。

 この時点で一般的な"ゲーム会社"および"社長"というものが持つイメージと一線を画していることは想像に難くない。

 そんな松山さんに会ってみようと思ったのは、このあまりにも不思議な人から"プロとは何か"の答えを見つけたいと思ったからだった。

 土曜日だったこともあり社員さんは誰もいなかったが、松山さんはサイバーコネクトツーとはどんな会社かプロジェクターに映した資料と共に説明し、その後社内をくまなく見せてくれた。

 かつては憧れたゲームクリエイターの世界だからこそ、松山さんが説明することとその意図の多くをオレは理解できたように思う。

 オレや仲間を呼んでくれたのもクリエイターとしてのインプットのためであり、松山さんはランチは必ず誰かと一緒に食べることをマイルールとしているのだという。

 ゲーム業界だけでなく、そこと関係を持つ漫画など別の業界とも接点を持ち、情報をオープンにすることで他社との情報交換をスムーズにする。他にも地域や学校との縁も持つ。

 ゲーム会社といえば機密事項だらけだと思っていたが、成長と発展を続けるため松山さんはこのようにしていた。

 それらの話を聞く最中、今回の目的だった"プロとは何か"の回答に繋がる質問をオレは探していた。

 そして出したのは何故オレがゲームクリエイターになれなかったのか。それに繋がるものとして、ゲームクリエイターを目指す学校にはどんな意味があるかという質問だった。松山さんの回答はこれだ。

"学校は今まで積み重ねてきた奴が、他とは違うということを認識する場所"

 例えば絵の世界において、学校に入ってから描いた人間と、昔から教科書の隅へのラクガキでもいいからずっと描いてきた人間では決定的に差が出てるのだという。

 それを聞いた仲間はその差は絶対に埋められないのか聞いていたが、ほぼ埋められないという旨の回答をしていたのを覚えている。

 松山さんが言いたいことの意味がオレには理解できた。才能の話ではない。後から追い越せないわけでもない。努力できる量に決定的な差があることを言いたかったのだとオレは思う。

 思えばオレがゲームクリエイターを目指していた時は、タイピング以外何も知らない状態で学校に入っていた。

 高校での数学や物理は万年赤点。専門学校では4年間皆勤賞かつ、課題を一つも落とすことなくできたがそれだけだった。最低限休まないだけ。落とさないだけ。それ以上のことをやろうとしてこなかったことを自分だからこそよく知っている。

 この話を聞いてオレは、にわかながらもハマっているアニメ"僕のヒーローアカデミア"に登場する人気実力No.1のヒーロー"オールマイト"が、体育祭で一番を獲る意欲を見せない主人公"緑谷 出久"に言った言葉を思い出していた。

"常にトップを狙う者とそうでない者。その僅かな気持ちの差は社会に出てから大きく響くぞ"

 初めてこの言葉を聞いた時、正しく今の自分に当てはまると感じ、衝撃を受けたのを覚えている。いつも最低限。落としてないからオレは大丈夫。

 何百万という馬鹿みたいな借金を背負ってまで行った学校の先で、オレはその時学んだことを何一つ活かせない仕事ばかりしてきた。

 もうゲームクリエイターという職業に未練はない。それでも今プロゲーマーとなったオレが、どういう姿勢で己を磨き、パフォーマンスをしていくべきなのか。この大失敗から学ぶ必要がある。

 やっていて分かるが、ポッ拳というゲームでさえ自分が1番上手いと感じたことは一度もない。でも、上手いからやるわけじゃない。勝てるからやるわけじゃない。勝ちたいから戦うんだ。オレにはその理由がある。

 自分に正論をぶつけつつ、常に成長しようとする姿勢。何かの世界においてトップを走る者が何をしてきたのか。凄い人ほど努力をしてきた人であるという当たり前にして目を背けがちなことを、松山さんから改めて気付かせてもらった時間だった。

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【選ばれた理由】

 こんなオレがV3に所属するきっかけとなったのは、言わずもがなEVO JAPANの優勝がきっかけだ。

 大会を終えて数週間後、突然ツイッターのDMにてスカウトされた。V3のことは、友人でありスマブラDX界のレジェンドプレイヤー的存在である"CaptainJack選手"が加入したことで知っていた。

 そんなチームのマスターから声が掛かり、真っ先に頭をよぎったことは相手が本物かどうか。すぐにJackさんに連絡を取り、彼が本物のV3のマスターであることを知る。

 彼は最初からオレを入れる前提で声を掛けており、どんな支援を求めるかを聞いてきた。対してオレはまさか声が掛かるとも思っていなかったことから、質問を無視して逆にオレから何が出来るかを聞いていた。

 スポンサーが付くなら嬉しいに決まっている。それもeSportsが金になりそうだとかで立ち上げた訳の分からないチームではない。Jackさんを加入させた十二分に信頼するに値するチームだから尚更だ。

 しかしそれまで店舗大会レベルですら優勝経験はなく、何なら準優勝など惜しいと言えるような成績も出していない。もしEVO JAPANだけを見て、オレを無敗の絶対王者と思って声を掛けたならとんでもないことになる。

 V3はLoLなどのPCゲームで名を馳せたチームであり、格ゲーのプレイヤーはいない。そのためV3側のポッ拳に対する情報量が少ない可能性もあることが不安材料だった。

 そのため契約の際に初めてV3のマスター"ケビン"に会った時、オレは彼にこう言ったのを覚えている。

「オレと同等かそれ以上の強さを持つことを大前提に "より若い人" "発信力のある人" "イケメンな人" "英語が話せる人" がいる。その中で何故オレを選ぶんですか?」

 アホだと思う。ここで掌を返されるのはオレとしても困る。でもチームを騙して加入し、見込みなしですぐに解雇された場合この先プロになる可能性は完全に潰えるだろう。

 だからこそ伝えるべきだと思った。今、本当のことを。しかし、それを聞いたケビンは特段驚く様子もなくこう言ってのけた。

"僕はポッ拳をよく知らないけど、あの時、それでも応援したいと思えるものが君にはあった"

 EVO JAPANの会場で決勝戦を観ていたのだという彼の言葉に、オレはチームへの加入を改めて決意する。

 彼の選択が正しいのかは分からない。でも、それを正解にできるのはオレだけだと思った。

 上記のとおりその後のSpringFistを鑑みれば、この選択は誤りかもしれない。でも、魅力あるたくさんの人と接するうちにオレは"プロとは何か"その回答を得ることができたと思う。それは……

"信念"

 それを持っていることが、上記で挙げた人たちの共通点だったからだ。では、信念とはそもそも何なのか。やっと得た回答さえも曖昧なものだとは思う。しかし先の見えない世界だからこそ、自身が定義する揺るがぬ"信念"を持つことが、その人をプロにするのだとオレは思う。



 こんなことを思いつつ、SwitchFestに参戦。これを制覇して後、明日はいよいよ公式世界大会WCS2018への出場をかけたニコニコ超会議2018が行われる。この日が近づくとオレはある一つの約束を思い出す。

 SpringFistの後にオーストラリアに帰国した、世界中のポッ拳プレイヤーを繋ぐ最重要人物の一人にして、オーストラリア予選を勝ち上がりWCSへの切符を手に入れた"みどり選手"の言葉だ。

"WCSで会おう"

 クロスさんが優勝するとコミュニティ的に完璧だとまで言ってくれた彼との約束を果たすべく"ニコニコ超会議2018篇"が幕を開ける。

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