隣に立つ資格

はじめに

 ポッ拳公式世界大会2019オセアニア予選ポッ拳部門を観てくださったみなさん、ご視聴・応援本当にありがとうございました!

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 結果は2位でしたが、8月にアメリカのワシントンD.C.で行われる本戦への出場権を手に入れることができました。

 今回はそのオセアニア予選の前後について、ありのままの言葉で書いていきます。

 オフレポではありませんが、クロスいがらしはこんな奴だというのを知るという目線で読んでいただければ幸いです。


評価の前借り

 人にはそれぞれイメージというものがある。負けず嫌いだいう性格や、可愛いものが好きだという好み、はたまた言葉やポーズが結び付く人もいるだろう。

 オレのイメージはというと、知り合いの多くがこんなふうなことを口にする。

・とにかく熱い

ポッ拳界の松岡修造だ

 どれも間違ってはいない。そもそもイメージは他者が抱くものなので、正しいも間違いもない。しかし、これらが持つポジティブなイメージはそのほとんどが後天的なものだ。

 オレは学生時代は何一つ目立つような個性はなく、何かに打ち込むこともなかった。ゲームやアニメの世界で例えるならモブキャラと呼ぶのがふさわしいだろう。そんなオレが上記のようなイメージを持たれるようになったのは、偏にポケモンがもたらしてくれた力によるものだ。

"いつか……オレだって、ヒーローに……!"

 何十年と腐りに腐っていたオレが夢見ていたそれは、ポケモンにまつわる多くの出会いによって陽の目を見ることになる。

 それはポケモンの生みの親"増田順一さん"との出会い。ポケモン公式世界大会"Pokémon World Championships(以下WCS)"へ参加したことによる海外ポッ拳プレイヤーとの出会い。ポッ拳大会優勝をきっかけに知ってくれた人たちとの出会い。

 到底満足するには至らないが、冷静に立ち返ると腐り続けた"オレにしては"ここ数年でずいぶんと成長し、出来ることが増えてきたように思う。

 ところが、安定感を得たかのように思われたのも束の間、去年12月の大会ではまさかの17位タイ。プレイヤーとしての強さだけを見ても、まだまだ上振れの塊であることを思い知らされた。

 思えば去年公式世界大会直前に行われた対戦交流会におけるダブルエリミネーショントーナメント(敗者復活戦があるルール)では無敗のまま優勝したにも関わらず、肝心のWCS2018では早々に予選敗退。未熟さが拭えないオレは自らをトッププレイヤー、プロゲーマーであると名乗る際は羞恥心に耐えて名乗ってきた。

 そんなふうに思いながら2018年は幕を閉じ、2019年が訪れる。そこでオレは年明け早々に見たある記事に胸を抉られる。eSports界のライターとして最前線で活躍されている"謎部えむさん"の記事だ。

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 記事で書かれているプレイヤーの軌跡と展望。軌跡とは積み上げてきた過去の実績を指しており、展望とはこれからより良くなるであろう未来への期待を指している。

 そしてこの記事では"展望とは負債である"と書かれている。その理由は、抱かせた期待はそれ以上の成果でもって返す必要があるためだ。だからこそ期待ばかりさせ、結果を出せなかった者は負債を背負うことになる。

 これを読んでただただ自覚させられた。それはまさしく"オレのことだ"と。 

 思えばオレは何十年に渡って腐り続けてきたにも関わらず、ここ数年で過去と比較しずいぶんと成果を出せるようになってきた。しかし、前述したとおりこれらはポケモンがもたらしてくれた力によるところが大きい。

 ポッ拳においてメインパートナーとしているルカリオは、そのかっこよさや誠実さゆえに数いるポケモンの中でも絶大な人気を誇り、ことポッ拳においては各種演出などから主人公枠と呼ばれる存在だ。

 オレはポッ拳の前にはスマブラシリーズのプレイヤーとして活動しており、そこでのメインパートナーもルカリオ。それ以前からも大好きなポケモンルカリオだと公言してきた。故にオレに抱かれるプラスのイメージは、ルカリオと結びついていることが多い。

 そんなルカリオがくれたかっこいいイメージを壊しかねない圧倒的実力不足。No.1になってほしいと応援され期待されることはあっても、本当にそうなるであろう信用がないという事実。

 オレは去年までは写真に写る際よく大口を開けていた(意図があってのものだが蛇足なので言及はしない)ため変顔で印象が付いてる人も多いが、結果が出せないのであればプロゲーマーどころかただの客寄せパンダでしかない。実力がなければ、笑わせてるのか笑われてるのかすら分からないだろう。

 どう考えてもただただ上振れしていただけ。パートナーのイメージに助けられてばかりだと否が応でも思い知らされた。

 だからこそオレは、今年の課題の1つとしてこのことを立てている。

それは"ポケモンの隣に立つことが恥ずかしくない人になる"ということだ。


 

2人の親友

 今年のWCSポッ拳部門は3体のポケモンを選んで戦うチームバトルというルールだ。オレはこれまでポッ拳においてルカリオのみと戦ってきており、ただの一度たりとも他のポケモンを大会の場で出したことはない。

 そんなオレに対しオセアニア予選1ヶ月前に届いたチームバトル採用という発表。正直絶望していた。幸い日本には他のポケモンについて質問ができる上級プレイヤーが多く、彼らからアドバイスを貰うことで成長がしやすい点では他国の選手と比較し有利ではある。実際その力が大いに助けとなった。

 とはいえ、ルカリオ以外の2キャラは1ヶ月で作った急造の器であることは拭えない。事実元々複数のポケモンで戦えるプレイヤー相手には、オセアニア予選直前にも関わらず1ヶ月鍛えに鍛えたチームで挑むも全く歯が立たなかった。

 そのことに心が折られかけていたオレは、2人の親友に思わず弱音を吐いてしまう。すると2人はこう返してくれた。

"人は持てる手札で戦うしかない。障害は大きければ大きいほど成し遂げた時クロスさんの為になるはずだ。満面の笑みでいけ。応援している人はその表情を望んでいるぞ。"

"逆境を跳ね除けてこそ、五十嵐翼(※本名)の真骨頂だ。大丈夫。君は向かい風すら糧にするだろう。ダメージを受けて強くなるスマブラルカリオみたいにね。"

 全く情けない。これがオセアニア予選僅か1週間前のことだ。でも、おかげで目が覚めた。


 数日後、ツイッター上であるものが目に入る。eSports専門会社ウェルプレイドのCEO"アカホシさん"のツイートだ。

 
 eSportsに興味があれば知らない人はいないであろうウェルプレイド。そのCEOの言葉に各コミュニティから代表とも呼べる注目の存在についてリプライが集まった。無論その中にはポッ拳コミュニティも含まれる。

 しかし、そこで挙がる者にオレの名はなかった。オレはまだコミュニティからまだ信頼を得ていない上述したが、これはそう感じる理由の一つだ。

"信頼を得るには積み重ねが大事"

 散々聞いた正論にして、何十年もいい加減に生きてきた自分には最も耳が痛い言葉だ。10代でトッププレイヤーとして活躍し世界の舞台で戦うプロゲーマーもおり、きら星の如く優れた人材が数多くいるeSports界において、まだまだ未熟さの目立つ27歳など埋もれて当然の存在だ。

 たまに思う時がある。プレイ技術、精神性など全てが今のレベルで、せめてあと10歳若かったらもう少しマシな人生を歩んでいたのだろうかと。しかし、どうあがいてもいい加減な生き方をした数十年は取り戻せない。

 でも、2人の親友の言葉に支えてもらったオレは上振ればかりの自分に対し、こう考えるに至る。

"積み重ねのなさが負ける理由になったとして、それは負けていい理由じゃない"

 そう思ったオレは、アカホシさんのツイートに対し自己推薦という形でリプライを送る。自信があってアピールしているのではなく、未熟を承知のうえで自分を売り込むのだ。我ながらイカれてるにも程があると思った。日頃から馬鹿みたいにハードルを上げ続け、身の丈に合わないことばかりしている自覚はある。でも、どんなに未熟でもNo.1になりたいなら挑戦しなくちゃ始まらない。

 そう考えピンチをぶち壊す精神性こそ、オレがスマブラルカリオから貰った大事な個性だ。やるゲームは変わっても、その個性は消えてない。

 それに両親や親友を始め、応援してくれる人はいる。何もなかった自分に頑張る力をくれた憧れの人やポケモンという存在がいる。ならばオレはそれに応えなくちゃいけない。親友から贈られた応援イラストを観て、オレは改めてそれを自覚した。
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 その後、オーストラリアにてオセアニア予選に挑戦。チームバトルというルールへのプレッシャーを跳ね除け、全てのバトルを笑顔で戦い抜いた。

 その過程でオレは、自分の全ての試合の直前「盛り上がっていきましょー!」「Let's go Pokkén!!」などと叫びながら、観客や自分の試合を待つプレイヤーへ拍手と歓声を促した。盛り上がりを伝えるなら、その場にいる人間の歓声こそが最大の武器であることをよく知っていたからだ。

 大会の結果自体は2位、かつプレイ内容としては後で振り返ってみても不足が目立つ。しかし、一つ大きな成果があった。初めて会う選手がほとんどであるオーストラリアのコミュニティにおいて、自国の選手でないにもかかわらず多数の人が「Let's go Cross!!」とオレを応援してくれたのだ。英語が喋れないなりに大会を盛り上げようとした気持ちが届いたのかもしれない。


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 逆境を跳ね除け、笑顔を忘れないという姿を見せられたことは、2人の親友のおかげだ。海を越えた先であろうとも、その言葉オレは忘れちゃあいない。

 そんな気持ちが届いたのか、大会終了後に嬉しさと悔しさが混じった複雑な感情を親友2人は誰よりもよく理解してくれた。結果はどうあれ、やることは変わらないだろと次に目を向けさせる言葉とともに。


約束と原点と

 オセアニア予選において、最もオレを助けてくれた存在として今年から公式コメンテーターを務めた"みどりさん"という人がいる。彼は元々日本に住んでいたオーストラリアの人で、英語だけでなく日本語も話せるほか、中国語も読み書きできるという。

 プレイヤーとしてもトップクラスの実力を持ち、多言語を話せることから世界中のポッ拳コミュニティを繋ぐ最重要人物足る彼は「(コミュニティを助けることを)喜んでやっている」が口癖だ。オレとのやり取りにおいても何度もそう言ってくれた。

 そんな彼との遠征についてのやり取りの際、オレはある約束をすることになる。

"約束したから何でも手伝うよ。その代わりにいいプレーを見せてくれ!"

 そう言ってくれた彼に応えるために、未熟なりにも1ヶ月間最善を尽くした。結果は2位。1位とは大差の実力で完敗。勝った試合の内容も決してよかったとは言えかったことは、彼も感じていたはずだ。事実、本戦までにはもっと強くなってくれと釘を刺された。

 一方で彼からは強さのみならず、観てくれる人を楽しませるようにすることの大切さも説かれてきた。曲がりなりにもプロゲーマーたるオレは、当然そのことには真摯に向き合う必要があることは言うまでもない。

 対戦中はもちろん、対戦前後含めその振る舞いが、表情が、観ている人を楽しませるものであるように。上述したように対戦前に歓声を促したパフォーマンスも彼のアドバイスに感化された部分が大きい。


 そして最終日の夜、関係者のホテル前でみどりさんと別れる直前、公式側のスタッフを務めていた見知らぬ男性に声を掛けられる。英語が分からないオレはみどりさんに翻訳を求めたところ、驚くべき言葉が返ってきた。

"僕は初めてちゃんとポッ拳を観たけど、キミのプレイは観ていてとても楽しかったよ"

 嬉しかった。オレは英語が話せるわけでもない。優勝したわけでもない。そして言ってくれた彼は、もちろんオレのことなど知らなかったはずだ。それでもそう言ってくれた彼に「Thank you so much.」とだけ伝えハグを交わした。みどりさんがまたオレを一歩先へと進ませてくれたことに感謝しながら。

 そして同時にオレはある言葉を思い出していた。

"僕はポッ拳をよく知らないけど、あの時、それでも応援したいと思えるものが君にはあった"

 EVO Japan2018優勝後"V3Esports"加入のために会った際、自分より魅力的なプレイヤーはたくさんいると伝えたオレに対し、決勝戦を観ていたというかつてのマスターが言ってくれた言葉だ。

 あれから約一年、公式世界大会本戦出場という切符を得ただけでなく、人を楽しませることが出来たことで本当の意味で前に進めたような気がした。

 そして次なる舞台はPokémonWCS2019本戦だ。多くの人に助けられながら憧れの舞台へ本当の意味で立つ時がきた。

 この舞台に立つこと、それは戦ったライバルたちの想いを背負うということ。それはポケモンゲームの頂点に挑むということ。そして何より、オレの精神その原点たる存在に成長したところを見せる時がきたということ。

 ずっと支えてくれたポケモンたちへ。何もなかったオレにたくさんのものをくれた憧れの人へ。

 本番まで残すところ約半年。その隣に立つことが恥ずかしくないようもっと自分を磨いていきます。ありがとう。

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