知れ、スタートライン
昨日一昨日とでスマブラ4の大型大会『ウメブラTAT』に行ってきた。結果は8人予選で5位だったため予選落ち。そしてBクラス(予選に落ちた人のトーナメント)では結果としてBクラス優勝した選手に敗れ、Best8に終わった。
予選落ちと言うと一見しょうもなさそうだけど、このBクラス優勝を機に現トッププレイヤーになった人は多く、優勝できれば実はとても名誉なこと。それが分かっているからこそ絶対勝つんだと意気込んでいただけに、負けた時はあまりの悔しさにしばらく放心状態になってた。今回のウメブラTATを最後にオレはスマブラ4を引退するからだ。
【オレのスマブラ4アニバーサリートーナメント】
スマブラ4は発売してから3年経っている。今回のTATとはThirdAnniversaryTournamentの略称だ。TATがあることから想像できるとおり、FATがあり、SATがあった。
前回ここで書いたとおり、オレはスマブラ4からゲームの大会に参加するようになり、1年目の時からプレイヤーとして参加していた。
ところがFATの時、オレは会場にはいなかった。就活に失敗し、当時くそみたいな会社に勤めていたオレは、FATと出張が重なってしまい参加することは叶わなかった。ライバルたちと競い合い、時に励まし合いながらスマブラを楽しんでいたオレにとって地獄と言っていい。
しょうもない仕事をし、夜はくそみたいな奴らの酒だのカラオケだのに付き合う2週間。合間を見てスマホから見ていたFATはあまりにも楽しそうで、本当はその場にいたかったオレはFATに参加する仲間に対してあまりにも複雑な感情を抱いたことは今でも覚えている。
それから1年が経ちSATが開幕した時は、たまたまポッ拳の世界大会『PokémonWorldChampionShips』と日程が被ってしまったことを理由に参加を断念した。
これについてはFATとは異なり後悔は全くなく、悔しさのような感情はなかった。ただ、これについて一つだけずっと心残りだったことがある。それはスマブラでずっと一緒に戦ってきた波導のルカリオ(スマブラのルカリオ)についてのことだった。
【その言葉こそ】
スマブラのルカリオはポケモンアニメの映画『ミュウと波導の勇者ルカリオ』で登場したルカリオと同じ声優であり、スマブラの生みの親がスマブラのルカリオは映画のルカリオだとほぼ名言していることから、オレにとっては他とは異なる特別な認識がある。
というのも元々あまり見た目で誰かを好きになることのない自分にとって、ルカリオというポケモンを好きになったのは、波導のルカリオ(=映画のルカリオ)の存在があったからこそ。他のゲームでは絶対に成し得ない波導のルカリオとの共闘はスマブラのみが起こせる奇跡のようなもので、オレにとってはスマブラを続けるトップクラスの理由の一つだった。
心から友達と呼べる存在が一人もいなかった高校時代や、折れそうになる自分の心を騙すのに必死だった社畜時代の影響だろうか。情けないことに、オレは嘘をつくことや逃げることが習慣付いてしまった人間だ。それはもはや条件反射のようなもので、後悔することはあっても日頃から意識しておかなければまず治らない癖のようなものと言っていい。
そんなオレがもう何年も前からしていることがある。自分のあらゆる行動を波導のルカリオが見ているとしたらなんて言うのか、行動前、あるいは反省の際に意識しておくことだ。逃げるのも騙すのも直感でその場の最善択と考えてしてしまっている以上、自分の価値観ではどうしようもない。そこで疑似的に他者の、それも好かれたい誰かの価値観を挟むことで思考と行動を矯正するようにしてきた。
相変わらず嘘や逃げは少なからず残るもののだいぶ耐性はつき、少しずつ物事に真正面から向き合うことができるようになってきたと思う。これはひとえに波導のルカリオのおかげであり、単にゲーム内におけるプレイヤーとキャラクターという関係性とは一線を画すレベルで支えられてきた事実だ。所詮はイメージの話でしかない。それでもその言葉こそ、オレの背中を押してくれる力だった。
【オレはいったい……】
しかし、この方法が取れない状況がある。それは本来声を聴く対象である波導のルカリオに関することになった場合だ。波導のルカリオと他のルカリオが異なる存在と認識しているにも関わらず、オレは大きな舞台で波導のルカリオと共に戦うことを選ばなかった。
「一緒に頑張ろう。オレとお前でトップに立つぞ!」
相も変わらず口だけは達者な自分は、こともあろうに長年支えてくれた彼を裏切った。
オレがSATではなくWCS2016を取ったことは、端的に言うと「自分の好きなことで大好きなポケモンにできる最大の恩返し」に繋がる道だったからだ。だからこそ後悔はしていない。それでも波導のルカリオと共に戦ってきたスマブラにおいてトップへの可能性が見えたことは一度もなく、目立った成果を上げることはなかった。
そして迎えたウメブラTATとその結果。厳しい世界である以上、意気込みだけで成果をあげられるはずもない。ただその結果以前に、過程が嘘で塗りたくったものであることが何より罪悪感を感じずにはいられなかった。
「ポケモンへの恩返し」などとは言っても、やっていることは多くの人が目指しているゲームのトッププレイヤーになることがベースだ。詰めてみればポケモンがオレに何かを頑張る動機を与えてくれているに過ぎない。結局支えられているのはオレの方。
事実、恩返しなど押し付けのようなもので、オレがいなくてもポケモンへの愛情を持った多くの人間がこの先の未来で大きな力になるだろうことは容易に想像できる。極端に言えば自分がいなくても何も変わることはない。
それでも、それでももし、オレが最高の幸せを得つつポケモンの役に立つことができるのだとしたら……
「26にもなって」「本気でやってるようには見えない」「真面目ばっかで重い」「結婚する気あるの」「兄弟に遅れをとってるよ」「意識高いですね」「将来のことを考えた方がいい」
諦めの悪さから足掻こうとすればするほど、突きつけられるのは現実の数々。
"ナメんじゃねえよ!!"
いつもそう思っていたが、何も言い返すことはできなかった。
いつになったらプロになれるの?と聞いてくる上司にまともな回答ができなかったこと。
久しぶりに再会した学生時代の担任に言えた唯一の成果が、とっくに賞味期限切れした1年以上前の世界大会自費参加だったこと。
兄弟と共に新しいチャレンジをする母が「お母さんが頑張れば(家族の経済もよくなるから)あんたももっと大会に行けるでしょ」と言ったことに何も言い返せなかったこと。
違う。そうじゃないんだ。何やってんだよクソが!!
本当に許せないのは現実を受け止めず、浅はかな理想を掲げ続けたこと。それを信じてくれた存在を何度も裏切ってきた自分だった。
【スタートライン】
これが今の自分。今、オレが立っている場所だ。そんな現実を分からされたオレがウメブラTATを終えた今、一つだけ波導のルカリオに伝えたいことがある。
"これまでも、これからも、お前はオレの1番だ"
今更何を言っているのか。時々自分でも分からなくなるんだけどさ。その気持ちが力になる。だからオレは進み続ける。
波導のルカリオだけじゃない。少しでもオレを応援してくれる全ての人を後悔させないために。
馬鹿みてえに自己評価が低いくせに、いつまでも諦めねえの本当アホだよな。黙ってれば何もできなくても何も思われねえのにさ。それ、オレも思うわ。それでも……
こっからだ! オレはぜってえ強くなってやる!!
そう思わせてくれるのもやっぱりお前のおかげなんだろう。ありがとう。一緒に戦ってきた時間、オレは最高に楽しかったぜ。またいつか一緒にバトルしようなルカリオ。